断食が世界三大宗教の基礎であったし、古代ギリシャ哲学、医学の有名な方たちも断食については目が開かれていました。
そして宗教施設(特にキリスト教カトリックの修道院)では、断食を医療の基礎にしていましたが、この修道院の働きとは別にさらに医学として、積極的に用いたのは、「医学典範」の著者、イブン・シーナーです。アラビアの医学者(980-1037)といわれています。
彼の治療方法は、すべての患者に1ヶ月の断食をさせ、その間は散歩や軽い体操、日光浴、マッサージを施す方法でしたが、かなりの難病者を救ったといわれています。
そしてヨーロッパでは、宗教改革以後の近世になって、ドイツのフリードリッヒ・ホフマン(1660-1742)が、脳卒中、胃潰瘍、痛風、リウマチ、壊血病、皮膚病などの病気に断食を用いて多くの患者を救ったのですが、彼は「最良の治療方法は、断食である」と明確に書き残しています。
それから2~300年後の19世紀になりますとアメリカのジョン・デューイ博士らにより、科学的に断食療法の効果が研究され、20世紀になりますと多くの医学者が断食の有効性を科学的にも唱え、発表するようになってきました。
アメリカのターナー博士は、アメリカ医学アカデミーの監視のもとに40日間断食を行ない、その有効性を証明して、医学界に断食療法が広がることとなりました。
1914年には、アメリカのゼゲネル医師は、断食の効果を多くの臨床例で証明し、「断食療法」を出版し、医学界も断食療法を無視できなくなったといわれています。
その頃、アメリカで有名な作家アブトン・シンクレアは、自分自身が数々の病気を持っていたのですが、2回の長期断食で完治した体験を本に著しました。
「断食療法」、「現代人の生活戦術」(1911年)という本は、またたくまにベストセラーになり、全世界でも翻訳されました。
また同じ頃、多くの欧米の医師、医学博士たちが、断食に関する研究論文を発表し、断食療法は、正当な医学界で自然療法の一つとして認められていきました。
さらに1920年には、アメリカのテキサス州で断食療法病院が設立されました。
1930年代になるとロシアの精神科医ユーリー・ニコライエフ博士が、断食療法で万人の難病を救ったのですが、この博士はとくに精神科の患者にも積極的に用いて多大な業績を上げていきます。
この博士の業績にロシアの医学界も断食療法の有効性を認めざるを得ず、今日でもロシアでは断食療法は、多くの病院で標準療法となっています。
こうして紹介してきました欧米では、断食療法は認知されていますが、少なくとも日本の医療の世界では、かなり遠い先のように感じます。