最近、 ある程度太ってもがんを発症しにくくする方法の開発を目指した研 究が進められています。
それは「細胞老化」の存在です。私たちの体は約60兆個の細胞で 作られていますが、
このうち一定の数の細胞は、毎日分裂を繰り返し、 増殖して体を維持しています。
中には分裂を繰り返すうちに細胞が傷つくこともあります。
この傷ついた細胞が増殖するとがんの発生につながるため、
人間の体内ではこうした傷ついた細胞の増殖を停止する機能が備わ っています。
これが細胞老化です。
傷ついた細胞の増殖を停止する細胞老化は、 人間にとって好ましい現象と考えられてきましたが、
最近になって良いことばかりではなく、時間がたって、 体内に老化した細胞がたまると、
炎症反応やがんの発生につながる分泌性のタンパク質を生み出す「 SASP」という現象を起こすことが分かってきたのです。
そして、このとき生み出されるIL-6、PAI-1という物質は 、肥満に伴って分泌される物質です。
生まれてから一度だけ弱い発がん物質をさらした実験用マウスに3 0週間、普通の食事または高脂肪の食事を食べさせたところ、
高脂肪の食事を取って肥満になったマウスの肝臓で細胞老化が起こ り、100%の確率で肝臓がんが発生しました。
これに対し、普通の食事を取ったマウスでは1匹も肝臓がんを発生 していませんでした。
肥満になると、がんの発生を促すといわれている「二次胆汁酸」 をつくる菌が腸内に増え、
作り出された二次胆汁酸が血管を通して肝臓に運ばれ、 肝臓の細胞を傷つけてSASPを起こし、
肝臓がんを発生させることが分かってきています。
実際、抗生物質を与えて腸内のこの菌を退治すると、肥満になって も肝臓がんの発生が少なくなることも明らかになっています。
これらは動物実験の結果ですが、 人間も高脂肪の食事を取ると二次胆汁酸が増えると報告されていま す。
通常、脂肪肝は肝硬変を経て、肝臓がんとなりますが、
アルコールを原因としない非アルコール性脂肪性肝炎(NASH) と呼ばれる、肥満者に多く見られる肝臓の病気では、
肝硬変を経由せずに肝臓がんになるのです。
NASHから突然、肝臓がんになった人の肝臓の細胞では、 細胞老化とSASPが確認できています。
将来的に、 検便で二次胆汁酸を生み出す菌の測定が簡単にできるようになれば 、
自分のおなかに抱えている発がんの危険性が分かるようになり、 食習慣の改善に役立てることもできますし、
その菌の増殖を抑える素材を見つけられれば、多少肥満しても
がんが発生しにくい食生活が実現できるようになるかもしれません 。
しかし、肥満はタバコと同様の発がん原因なのですから、 食べ過ぎを戒め、少食に徹していきましょう。
少食ファスティングを訓練する場が、藤樹の宿なのです。
来会をお待ちしています。