一般社団法人日本植物生理学会のサイトで玄米菜食を指導している方との問答がありました。
玄米菜食の調理師をしています。玄米に含まれる「フィチン酸」という成分について教えて下さい。
独学で調べた分では、体の有害物質を排出したり、ガン治療に有効など有益である面と、
ミネラルの吸収を阻害したり、排出してしまったり(亜鉛が不足するとか?)有害な部分も聞きます。
フィチン酸は結局、毒なのでしょうか?薬なのでしょうか?植物の中では、
植物のためにミネラルを蓄える働きをしているとか?ならば毒ではないのでは?という気もいたします。
フィチン酸は、イノシトール-6-リン酸と呼ばれる化合物です。
植物では主に種子に結晶化した状態で蓄えられ、
次世代に三大栄養素の一つであるリンを受け渡すことができる物質です。
通常、種子の中では、鉄や亜鉛と結合した状態で存在し、
それらのミネラルも同時に次世代に渡す重要な役割を果たしているとされています。
従って、物質そのものは毒ではありません。
では、フィチン酸が人の体にとって有益か有害かという事ですが、
一言で言うと「フィチン酸の摂取方法次第」と考えられます。
動物(ヒトも含めて)が食べ物を体内に吸収するためには、
その食べ物が水に溶けやすい状態になる必要があります。
一般にフィチン酸は、アルカリ条件(体内の多くの環境)では、鉄や亜鉛と強く結合してしまい、
水に溶けにくい物質(フィチン酸塩と呼ばれています。)なると考えられています。
つまり、そのまま体内に吸収される事無くフィチン酸が鉄、亜鉛などを捕まえたまま、
体外へと排出される事になります。
(カルシウム、マグネシウムはフィチン酸の影響をあまり受けないという報告もありますが、詳細は不明です)
上記の事を考慮して玄米を食べた時の事を考えると、
玄米が元来有している鉄や亜鉛などのミネラルが、効率良く吸収されないということになります。
これがフィチン酸について考えられている有害な部分です
(さらに、フィチン酸は動物の体外から排出された後も分解されにくく、富栄養化など環境にも悪い影響があるとされています)。
現在多くの実験室で、この問題を解決するために、
食物(主に穀類)中のフィチン酸を下げる努力がなされています。
もし、フィチン酸含量が少ない食物が市場に出回る事が可能になると、
穀物が本来もっているミネラルを効率良く吸収できる様になる可能性があります。
次にフィチン酸の有益な部分についてです。
有益な効果の一つとして、確かに抗ガン作用が報告されています。
しかし、このような効果はまだ確実に実証されたものではありません。
さらに、仮にフィチン酸がこの効果を持っているとしても、効果が出るためには細胞に吸収される必要があります。
よって穀物などでフィチン酸を摂取しても、体内では水に溶けにくいフィチン酸塩なので、
有益な効果を得られるようには思えません。
もしフィチン酸が単独で水に溶ける状態のものが市販されているならば、
そちらを水に溶かすなりして摂取すれば良いのかもしれません。