2014/02/17週刊現代02
糖質制限は、なぜ危険なのか。糖尿病の世界的権威で、関西電力病院院長の清野裕医師が解説する。
「人間には一日170gの糖が必要とされています。
そのうちの120~130gは脳で消費され、30gは全身に酸素などを運ぶ赤血球のエネルギー源として消費されます。
糖質は、生命を維持するために欠かせない栄養素なのです。
糖質を制限してしまうと、代わりにタンパク質を構成しているアミノ酸を、
肝臓が糖に作り変えるというシステムが働き始めます。
タンパク質を糖に変えられるなら、肉を食べれば問題ないのではないかと思う方もいるでしょう。
しかし、人体の維持に必要なエネルギーをタンパク質や脂質でまかなおうと思ったら、
毎日大量の肉を食べなければなりません。
数kgもの肉を毎日食べ続けることは現実的に不可能です。
糖エネルギーが不足すると、それを補うために、
体は自分の筋肉を分解してアミノ酸に変えていきます。
結果、筋肉量がどんどん減っていってしまうのです」
渡辺さんの筋力が落ちた原因は、まさにこれだ。
渡辺さんの場合は特に、3食とも主食を完全に抜くというハードな糖質制限を行っていたため、
筋肉もどんどん失われていったのだ。
なぜ、このような危険な食事制限がまかり通ってしまうのか。
「実は糖質制限ダイエットには、はっきりした科学的根拠やガイドラインがないのです。
だから、評判ばかりが独り歩きして、過剰なやり方が横行する。
若い人や糖尿病患者が、医師の指導のもとで一定期間やるのはいいでしょう。
しかし、65歳以上の高齢者は安易に手を出すべきではない。
寝たきりになる危険性が非常に高いからです。
実際、私の病院でも糖質制限で筋力が低下したと来院する高齢患者が増えています」(前出・清野医師)
糖質制限ダイエットが引き起こす問題は、筋肉量の低下だけではない。
実は骨にも甚大な影響を及ぼす。
「渡辺さんのケースも、糖質制限が原因でしょう。
また、要注意なのは女性。
骨粗鬆症は圧倒的に女性に多く、
60歳代で2人に1人、70歳以上で10人に7人が悩んでいます。
ダイエットは女性のほうが熱心だからでしょうか。
糖質制限を始めて骨粗鬆症を加速させてしまったという中高年女性の患者が、
すでに何人か駆け込んできています。
筋力が低下したり、骨粗鬆症になってしまった高齢者は、
ほんのちょっとの病気や怪我で入院すると、
あっという間に寝たきりになってしまいます」(愛し野内科クリニック院長で糖尿病専門医の岡本卓医師)
忍び寄る「寝たきり」の恐怖—。
自分の足で立つことができなくなった日から、一体どのような暮らしが始まるのだろうか。
一度失った体力を元に戻すのは容易ではない。
多くの場合、みるみる足腰が衰え、家族やヘルパーの手を借りなければ日常生活が送れなくなる。
食事、入浴など身の回りの世話はもちろん、いずれトイレも自力でできなくなってしまう。
妻や子供におむつを取り替えてもらうのが、もっともつらいと明かす人も多い。