しばらく前に「糖はがんの栄養源」という研究成果がニュースに取り上げられ、
「糖質制限は体によい」という糖質制限派の人たちを勢いづかせたことがあります。
しかしこれは実験室で微生物を使って行った実験の結果であり、
早合点もはなはだしいものでした。
このことがニュースが世界を駆けめぐったために
至る所で食べかけのドーナツがゴミ箱に捨てられる事態が発生したのです。
そのニュースの見出しは、
「糖はがんの好物:最新研究で判明」と内容です。
その問題となった論文は、
『Nature Communications』に2017年10月13日付で掲載されたもので、
内容は「今回わかった糖とがんの関係は、広範囲に影響を与えるでしょう」と、
共著者のひとりであるベルギーの生物学者、ヨハン・ティーヴリンは
プレスリリースで述べている。
確かに影響は広範で世界中に大きな影響を与えました。
これゆえに反・炭水化物派の人たちは、
すぐにTwitter上で糖類撲滅の気勢をあげたのです。
しかし、今回の発見は、糖の摂取(あるいは糖の摂取を断つこと)が、
がんの発症や成長に影響を及ぼすことを証明するものではないのです。
この研究の対象は酵母だったのです。
腫瘍内によく見られるある種のたんぱく質が過剰生産される。
このたんぱく質は、腫瘍細胞の成長と分裂を促進する。
したがって、高血糖は既存の腫瘍を悪化させるおそれがある──というものなのです。
確かに興味深い研究なのですが、
特定の食生活を医学的見地から推奨するものではまったくなく、
論文掲載の翌週には、メディアに向けて、主張をこのように変えました。
「糖ががんを発生させるメカニズムをわたしたちが発見したと
一部の人は解釈していますが、
それは明らかに誤りです」
とかくこのような研究や実験室で培養された菌による結果を、
ヒトに安直にあてはめたがる傾向は、栄養学の分野で特に顕著となります。
食生活の研究が一般受けするのは、シンプルな答えを授けてくれるからでしょう。
「脂肪や炭水化物をカットしなさい、2日ほど断ちななさい、
ネアンデルタール人が食べていたものだけを食べなさい」などといいますが、
これでガンには糖質が最悪の敵だと断定するのはかなり横暴だということです。
混乱を極める世界のなか、こうした言葉は節制の効果をうたうのです。
しかし、がん細胞とは何かです。
国立がんセンターサイトにはこのように書かれています。
人間の体は細胞からできています。
がんは、普通の細胞から発生した異常な細胞のかたまりです。
正常な細胞は、体や周囲の状態に応じて、ふえたり、ふえることをやめたりします。
例えば皮膚の細胞は、けがをすれば増殖して傷口をふさぎますが、
傷が治れば増殖を停止します。
一方、がん細胞は、体からの命令を無視してふえ続けます。
勝手にふえるので、周囲の大切な組織が壊れたり、
本来がんのかたまりがあるはずがない組織で増殖したりします。
正常な細胞ではこのようなことはありません。
がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に2個から10個程度の傷がつくことにより、発生します。
これらの遺伝子の傷は一度に誘発されるわけではなく、
長い間に徐々に誘発されるということもわかっています。
正常からがんに向かってだんだんと進むことから、「多段階発がん」といわれています。