環境中にあって、私たち人間を含めた生物の本来のホルモン作用をかく乱する物質を
一般に「環境ホルモン」と呼んでいます。
1960年から1970年代頃にかけて、これまでの医学、生物学、毒性学では
説明が困難な現象が人や野生生物に見られるようになってきました。
これまでに魚類、は虫類、鳥類といった野生生物の生殖機能異常、
生殖行動異常、雄の雌性化、孵化能力の低下の他、免疫系や神経系への影響等が
多く報告されています。
その直接の原因が作用メカニズムまで明らかにされているものではありませんが、
異常が認められた生物の生息環境中に存在するDDT、PCB、TBT、ダイオキシン、農薬などの
化合物への曝露との関係、また一部にはノニルフェノールによる影響も指摘されています。
百科事典の説明を紹介(要旨)しておきます。・・・
百科事典マイペディアの解説
ダイオキシン,DDT,PCBなど約70種類の物質が環境ホルモンであることがわかっている。
そもそも,ホルモンが機能を果たすには,
まず血液中でそれに対応する受容体(レセプター)と結びつく。
つまり,女性ホルモンであれば女性ホルモンのみに結びつく受容体が
血液中に存在しているのである。
しかし,環境ホルモンはあたかも女性ホルモンであるかのように,
女性ホルモンの受容体に結びついて,本来のホルモンバランスを狂わせてしまう。
世界で最初に環境ホルモンへの警鐘を鳴らしたのは,
デンマーク・コペンハーゲン大学のニルス・スキャベク教授が1992年に
英国の医学誌《ランセット》に発表した論文である。スキャベク教授は,
世界20ヵ国の健康な男性1万5000人を調査したところ,
過去50年間で精子の数が半減,さらに精液の量も25%減少していることがわかり,
その原因として環境ホルモンとの関連を指摘した。
さらに,世界各地では環境ホルモンによって
性転換や生殖障害を起こした動物の例も数多く報告されている。
アメリカ環境保護局(EPA)が1997年2月にまとめた報告書によると,
化学物質によるオスのメス化や,生殖障害が起きている動物は,
カメ,クマ,カモメ,アザラシなど20種類におよぶ。
また,ロンドンでは数ヵ所の川で性転換した魚,パリのセーヌ川ではオスがメス化した
ウナギ,米国フロリダ州では生殖器官が奇形化したヒョウが見つかっている。
全国各地で陰茎と精管が発達したメスの巻貝が発見された。
こうした現状から,世界的な研究体制が必要だとする認識が広がり,
1997年1月に米国ワシントンD.C.で環境ホルモンのワークショップが開催され,
世界保健機関(WHO)や経済開発協力機構(OECD)のほか,
世界各国から現状と研究動向が発表された。
日本でも,他の先進国に遅れながらも各省庁が対策に乗り出している。
環境庁は1997年3月,〈外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究会〉を発足させ,
1998年5月には環境ホルモン問題への対応方針をまとめた。
厚生省は1997年から,世界的な統一基準による精子数の計測方法で,
日本人の精子数を長期的に調べるプロジェクトを開始した。
通産省では,工業界の検査にも使えるように,環境ホルモンのテスト方法を開発している。・・・