こうした食欲をコントロールしているのが、摂食中枢と満腹中枢が存在する脳の視床下部です。
視床下部と、さらに脳内報酬系が連携して、空腹感や満腹感を調節しているのです。
これまでにラットの実験で、果糖を脳に注入すると食べものを探し始め、
ぶどう糖を注入すると食べものの摂取が減ることが証明されてきました。
ところが、ぶどう糖と果糖を摂ったときになぜ摂食行動が違ってくるのか、
私たちヒトの脳の各領域との関係が分かってきたのです。
最近も、イェール大学の研究者たちが、新しい脳機能イメージング法を利用して、
ぶどう糖と果糖の摂取後の脳の活性化の違いを調べました。
対象は、健康な成人ボランティア20人(平均年齢31歳)です。
この結果、ぶどう糖の摂取後は食欲が減少したのに対して、
果糖ではこのような反応は起こりませんでした。
やはりぶどう糖の摂取後は空腹感が減り満足感を得たのに対して、
果糖はぶどう糖に比べて、空腹感を減らすことができず、
満腹感を得にくいということが明らかになりました。
私たちは普段、果物や野菜などに含まれる自然な果糖と、
加工食品や清涼飲料水に含まれる果糖、2種類の果糖を摂取しています。
後者はたいてい、「異性化糖」という形で摂取することが多く、
大量の果糖を一気に摂取する心配があります。
これに対し、果物や野菜に含まれる果糖は、食物繊維などの作用でゆっくり吸収されます。
さらに、果物や野菜にはビタミンやミネラルなどの栄養素も豊富に含まれていますので、
私たちの健康にメリットがあります。
ですから、果物や野菜などの自然な果糖を適量摂取するのはお薦めできる一方、
異性化糖入りの飲み物や加工食品の摂り過ぎには注意する必要があるのです。
上記の文章は週刊ダイヤモンド2013年に記載された大西睦子さんのものです。
大西睦子(おおにしむつこ)
内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に、「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側」(ダイヤモンド社)、「『カロリーゼロ』はかえって太る!」(講談社+α新書)、「健康でいたければ『それ』は食べるな」(朝日新聞出版)。