治療
・抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)
・血栓溶解薬
深部静脈血栓症の治療では、肺塞栓症の予防が主な目標になります。
最初は入院して治療する必要がありますが、治療法の進歩により、
その後は深部静脈血栓症の人の大半が自宅で治療することが可能になっています。
床上安静は必要ではありませんが、症状の軽減には役立ちます。
活動に制限はありません。
身体活動によって、血栓が剥がれて肺塞栓症を引き起こすリスクが高まることはありません。
治療は通常、以下のもので構成されます。
・抗凝固薬(最も一般的)
・血栓溶解薬
・まれに血栓フィルター(傘の骨組みのような形状をしたフィルター)
1・抗凝固薬
深部静脈血栓症では、すべての患者に抗凝固療法が行われます。
通常、低分子ヘパリン(エノキサパリン、ダルテパリン、チンザパリンなど)
またはフォンダパリヌクスを皮下注射し、ワルファリンを服用します。
注射剤はすぐに作用しますが、ワルファリンは完全に効果が出るまで数日間かかります。
ワルファリンの効果が現れたら、注射剤の投与を中止します。
がん患者や、抗凝固薬の服用にもかかわらず血栓の問題が再発する患者など、
一部の人では注射剤のみを使用して、ワルファリンの投与は開始しません。
薬物療法(ワルファリンまたは注射剤)の期間は、
患者のリスクの程度によって異なります。特定の一時的な原因
(手術や特定の薬剤の投与中止など)で深部静脈血栓症を発症した人は、
抗凝固療法を3~6カ月継続します。
具体的な原因が見つからない人は、通常6カ月間以上にわたり、
ワルファリンを服用します。
原因が一時的なものではない場合(血液凝固障害など)、
または深部静脈血栓症が2回以上発生した場合には、
ワルファリンを生涯にわたって継続する必要があります。
ワルファリンを服用すると、内出血、外出血を問わず出血のリスクが増大します。
このリスクを最小限にするため、ワルファリンを服用している人は
定期的に血液検査を受け、
血液の凝固機能がどの程度抑制されているかを確認する必要があります。
この血液検査の結果をもとに、ワルファリンの用量を調節します。
通常、血液検査は最初の1~2カ月間は週に1回か2回、その後は4~6週間毎に行います。
ワルファリンの分解は多様な薬剤や食べものによって変化します( 薬物相互作用)。
一部の薬剤や食べものはワルファリンの分解を促進し、
ワルファリンの用量による効果が薄れ、血栓が再び形成されるリスクが増大します。
一方、ワルファリンの分解を遅らせる薬剤や食べものもあり、
同じ用量で効果が増大し、出血が起こる可能性が高くなります。
現在では、ワルファリンの代わりに使用できる新しい経口薬があります。
直接型経口抗凝固薬(DOAC)と呼ばれるこの種の薬としては、
リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトランなどがあります。
これらの薬剤の抗凝固作用はワルファリンと比較して速く現れ、
血栓の治療にはワルファリンと同じくらい効果的です。
こうした新しい薬剤では、ワルファリンのように用量を調節するために頻繁に
血液検査をする必要がありませんが、出血のリスクは高いままとなります。
抗凝固薬で最もよくみられる合併症は過度の出血で、生命を脅かす可能性があります。
過度の出血の危険因子には以下のものがあります。
・65歳以上
・最近の心臓発作、脳卒中、消化管の出血
・糖尿病
・腎不全
ワルファリンを服用している人には、抗凝固作用を相殺するため、
ビタミンK、血漿(凝固因子を含んでいます)の
輸血、プロトロンビン複合体製剤を投与することができます。
低分子ヘパリンを服用している人には、プロタミンを投与して、
抗凝固作用を部分的に相殺できます。
新規の経口抗凝固薬
(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン)は、
ワルファリンと比較して重篤な出血の発生率が低い傾向にありますが、
これらの薬剤のうち、現時点で過度の出血が起きた場合に
作用を中和できる薬剤があるのはダビガトランだけとなっています。
これ以外の薬の一部についても、作用を中和する薬剤の検討が勧められています。
MSDマニュアル家庭版「深部静脈血栓症」を参照しています。