宮沢 もちろん可能性はあります。おそらくそうなると、
日本人はパニックになるかもしれませんが、それでも、統計値を見れば、
そもそもインフルエンザの死亡者数は年間約3000人、
統計によっては1万人と推計されていますし、
肺炎で亡くなる方が年間約12万人いるわけで、そういうものと冷静に比較すれば、
全体で見るならば大きな影響が出るというものではないだろうと個人的には思っています。
しかも、それよりももっと小さい数千人、
あるいは数百人という水準で収まるならなおさらです。
さらにいうと、まだ100人以下の日本の状態で過剰なパニックは禁物です。
藤井 なるほど一番恐ろしいのは「パニック」だということですね。
今40人程度の感染死者数ですが、我々は今、ここで、これが「数百人になり、
数千人になることを十分想定内のことである」というスタンスで議論していますし、
確率は必ずしも高くはないが「一万人を超える可能性」すらあり得ると
「冷静」に受け止めている。
学術界にはリスク・マネジメント(リスクを管理していくこと)や
リスク・アクセプタンス(リスクを受け入れること)と呼ばれる概念がありますが、
我々はまさに、そういう概念でもって、この感染症の問題を捉えている。
そこで大切なのはパニックにならないことだと考えている。
それはもし仮に、私個人や家族が重症化し、
死に至っても同じようにパニックになるべきではない、と考えている。
ですが、おそらくマスコミは、感染死者数が100人を超えたとき、
さらには1000人を超えたときに「大騒ぎ」することになって、
国民は大変な不安になってしまうリスクがある。
そうなると、過剰自粛を国は要請し出し、
それがさらに社会的混乱を拡大させてしまうリスクがありますね……。
そうなれば、感染症による被害を上回るパニック被害が生ずることになる。
我々は実は、公共政策の視点から、そちらのパニックをも本気で心配しているんですよね。
だから、我々からすれば、一部の方々からバッシングされるリスクが
十分あることを知りながら、あえて「保身のための安全側の論理」ではなく
「科学的な見通しの論理」を、こういう形で公表しているわけですよね。
本当に宮沢先生には心から感謝いたします。
確率的にいえば、 「感染者と濃厚接触しても感染する事は十中八九ない」
藤井 ちなみに、感染してしまった場合における「致死率」についてはどうでしょう?
宮沢 「死者/感染者」に関してはインフルエンザの10倍とか、
お年寄りにおいては何十倍とかいう説・試算がありますね。
ただ、政府の専門家会議が公表しているデータでは、感染者の内、
人に感染させた実績がある方は、5人中1人です。
だけれどもインフルエンザの場合は5人中5人くらいが伝染させる。
藤井 なるほど、濃厚接触者にすら誰一人感染させていない感染者、っていうのが、
5人中4人、80%もいるっていうことですね。
一人が何人に伝えているかにもよりますが、インフルエンザよりも、
感染しにくい傾向がありそうですね。
宮沢 ただ、一人が複数に伝えるスプレッダー、あるいは、
大量の人に伝えるスーパースプレッダーのような方が一部にいるようです。
藤井 でも、それも、スプレッダーが濃厚接触者全員に感染させるわけではないですよね。
他者に感染させた実績のある五人の内の一人の感染者においても、
その濃厚接触者全員に感染させたわけじゃないですよね。
だから、目の前に感染者がいたとして、その人と濃厚接触したとしても、
その人に感染させられる確率って、最大で20%ですが、
実際のところ数パーセントから一割程度、っていうことなんでしょうね。
逆にいうと、感染者と濃厚接触したとしても、
確率論的にいうなら十中八九うつらない、ということですね。
宮沢 データからはそうなりますね。
まあ規制はしているとはいえ、自粛はしているとはいえ、
それでもある程度の生活を皆が続けていて、この程度の広がりだとすれば、
今の警戒レベルを続ける限り、それほど急速に感染していくとは思いがたいですね。
でももちろん、一部の人は潜在的にものすごいかかっているのではという説もあって、
私もそれを危惧していたんですけれども、
PCR検査をやってる地方衛生研究所の方々の話を聞くと、
「いや、それはないんじゃないか」とのこと。
というのは、要はPCR検査、
RT─PCR検査をするときに疑い例だけをセレクトしていますよね。