ピロリ菌は、胃の粘膜に生息しているらせん形をした細菌です。
胃には強い酸(胃酸)があるため、昔から細菌はいないと考えられていましたが、
その発見以来、さまざまな研究から、
ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍などの胃の病気に深く関っていることが明らかにされてきました。
子供の頃に感染し、一度感染すると多くの場合、
除菌しない限り胃の中に棲みつづけます。
ピロリ菌に感染すると、炎症が続きますが、この時点では、
症状のない人がほとんどです。
胃の不快感がくりかえすとき、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの病気が疑われます。
胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者さんで特に再発をくり返すときは、
ピロリ菌に感染していることが多く、慢性胃炎の発症の原因や、
潰瘍の再発に関係していることが、わかっています。
ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌がつくりだす酵素ウレアーゼと
胃の中の尿素が反応して発生するアンモニアなどによって直接胃の粘膜が傷つけられたり、
ピロリ菌から胃を守ろうとするための生体防御反応である免疫反応により
胃の粘膜に炎症が起こります。
ピロリ菌に感染している状態が長くつづくことで、
さまざまな病気を引き起こす可能性もあります。
胃の中には、食べ物の消化を助け、食べ物の腐敗を防ぐために、
胃液が分泌されています。
胃液には、金属でも溶かしてしまう強い酸(塩酸)が含まれているため、
胃の中は強い酸性(pH1~2)で、通常の菌は生息できません。
ピロリ菌が活動するのに最適なpHは6~7で、4以下では、
ピロリ菌は生きられません。
それなのに、なぜピロリ菌は胃の中で生きていけるのでしょうか?
秘密はピロリ菌がだしている「ウレアーゼ」という酵素にあります。
アンモニアはアルカリ性なので、ピロリ菌のまわりの胃酸が中和され、
生息できるのです。
ピロリ菌はべん毛をスクリューのように回転させながら、
らせん状の本体を回転させて移動します。
スクリューを逆回転にすればバックもできます。
ピロリ菌はべん毛を1秒間に100回転くらい回転させて、
自分の10倍ほどの長さを移動します。
この移動の速さは、人間で言うと100mを5.5秒で泳ぐほどの猛スピードですから、
オリンピックなら間違いなく金メダルです。
べん毛は、胃の中でも酸の弱そうなところを探す
センサーの役割をしているという説もあります。
べん毛の先端についている袋のような膜には、
べん毛を胃酸などから守る役割があると考えられています。
ピロリ菌はオーストラリアのロイヤル・パース病院のウォーレンと
マーシャルという2人の医師によって発見されました。(注・01)
医学界ではその100年ほど前から、
胃の中にらせん形の細菌がいるという説が出ていましたが、
胃の中は強い酸性だから細菌は生息できないという説が有力になっていました。
そんななかで1979年に病理専門医のウォーレンは、
胃炎を起こしている患者の胃の粘膜にらせん形の菌がいることを発見しました。
そこで、同じ病院に研修医としてやってきたマーシャルとともに
ピロリ菌の発見は偶然のたまものウォーレンとマーシャルは、
細菌学の父といわれるコッホが提唱した
「ある細菌がある病気の原因である」と証明するための4原則、
「コッホの四原則」に基づき、らせん菌を分離・培養しなければなりませんでした。
(注・01)
バリー・ジェームス・マーシャル
バリー・マーシャル(Barry James Marshall、1951年9月30日 - )は
オーストラリアの微生物学者。2005年ノーベル生理学・医学賞受賞。西オーストラリア大学教授である。
ストレスや辛い食べ物、胃酸の分泌過剰が原因と考えられてきた
胃潰瘍の原因がヘリコバクター・ピロリであることを発見し、
2005年に共同研究者のロビン・ウォレンと共にノーベル生理学・医学賞を受賞。
現在も西オーストラリア大学分子生物学研究室で
ヘリコバクター・ピロリに関連する研究を続けている
以下は武田薬品サイトの「ピロリ菌のお話」を参照のこと
【解説】
ピロリ菌の発見は若いオーストラリアの医師たちでした。
しかもイースター休暇で培養器に置いたまま放置した結果、発見されたとは驚きです。