WHOではアルコールをめぐる議論が高まり、
危機感をもった世界の大手酒類メーカーは連携して、
自主規制による対策で十分であるとアピールしました。
日本でも国際シンポジウムが開かれました。
結局、アメリカ・日本など消極派の反対で、国際基準づくりには合意が得られず、
「アルコールの有害な使用」を低減するための
さまざまなレベルの行動指針を打ち出したうえで、
選択は各国にゆだねる方式をとることになりました。
こうして、「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」は、
2010年5月の第63回WHO総会において全会一致で採択されました。
広告規制や、安売りや飲み放題の禁止や制限、
課税や最低価格制による酒の価格引き上げなどを含む、幅広い対策を求めています。
「たばこ規制枠組み条約」と違ってWHO加盟国への法的拘束力は持ちませんが、
各国は地域性や宗教、文化などに合わせて対策を選び積極的に取り組むこと、
その進展について定期的に報告することが求められています。
では今、なぜ世界戦略が必要なのでしょうか。
「アルコールの有害な使用」は、世界の健康障害の最大のリスク要因の1つで、
個人の生活を損ない、家族を破壊し、社会にダメージを与えます。
2004年には、世界でおよそ250万人がアルコール関連の原因で死亡しています。
世界の全死亡の3.8%、疾病負担の4.5%に関与しているのです。
精神神経疾患や心血管疾患、肝硬変、種々のがん、
その他の非伝染性疾患の回避可能な主要な危険因子なのです。
HIV/AIDS、結核や肺炎など一部の感染性疾患とも関連があります。
疾病負担のかなりの割合が、交通事故や暴力、自殺、傷害によるものです。
リスクの度合いは、年齢、性別、その他の生物学的特徴、
あるいは飲酒の設定や状況によって異なります。
とくにリスクが高いのは、子ども、青少年、
出産適齢期の女性、妊婦や授乳期の女性、先住民、
その他の少数民族や社会経済的立場の低い人々です。
現在世界で起きている健康、文化、市場の傾向を見ると、
アルコールの有害な使用は、後も世界的な健康問題であり続けることが予測されます。
この傾向を認識し、あらゆるレベルで適切な対応をとらねばならないのです。