白色脂肪細胞は、女性ホルモンである
エストロゲンの前駆体(働きが抑えられている状態)をエストロゲンに変換しています。
脂肪を取り込んでいない白色脂肪細胞はこの変換機能を果たさないため、
女性が痩せ過ぎると、女性ホルモンの分泌が減り、
生理不順などさまざまな問題を引き起こします。
特に思春期の女性の痩せ過ぎは問題です。
そして最近、特に注目されているのが、
白色脂肪細胞によって分泌されるアディポサイトカインというタンパク性の因子群です。
アディポネクチンは炎症を抑える作用があり、慢性炎症性の疾患である
糖尿病・動脈硬化症を抑制するといわれています。
他にも、摂食調節と熱産生の作用をもつレプチンや、
抗糖尿病作用をもつビスファチンといった
アディポサイトカインが分泌されていることもわかっています。
肥満によって白色脂肪細胞が肥大化し、数が多くなると、
善玉集団だった脂肪組織が不良化してしまいます。
善玉物質の分泌・生成が減り、かわりに悪玉の物質が増えてくるのです。
その中のひとつに、アンジオテンシンⅡという物質があります。
この物質には血圧を上げる作用があり、高血圧症の原因となります。
しかし、アンジオテンシンⅡは本来悪玉の物質ではありません。
というのも、細胞が生きていくためには、血液中から酸素を取り込む必要があります。
そのために、白色脂肪細胞は、
アンジオテンシンⅡを自ら分泌して血流をポンプアップし、
末端の細胞まで酸素を供給しています。
脂肪細胞の大きさや数が正常であれば問題ないのですが、細胞が肥大化し、
数が多くなってくると、その分の血流を確保するために、
アンジオテンシンⅡの分泌量が非常に多くなります。
その結果、全身の血圧にまで影響してしまうというわけなのです。
また肥満になると、前述したアディポサイトカインの中でも
悪玉というべきTNF-α、MCP-1といった因子も脂肪組織から作り出されます。
TNF-αとMCP-1はともに、免疫系の炎症を引き起こします。
アディポネクチンとは逆に、TNF-αはインスリンの働きを悪くし糖尿病発症に関わり、
動脈硬化の発症、悪化に関与していると考えられています。
他にもPAI-1という、血液を固めて血栓を作り出す因子も分泌されることがわかっています。
こうした悪玉の因子は、皮下脂肪よりも特に内臓脂肪で影響を及ぼします。
なぜなら、内臓脂肪は腹腔内に存在するため、
その脂肪組織から分泌された物質が肝臓にすぐに流入し、
肝臓の代謝機能に強い影響を及ぼすからです。
また最近では、内臓脂肪と皮下脂肪では、白色脂肪細胞そのものは同じ細胞ですが、
脂肪組織の機能自体が異なるといわれています。
実際、内臓脂肪でのみ分泌される物質もいくつか発見されています。
もうひとつの脂肪細胞、褐色脂肪細胞があります。
ヒトを含めた哺乳動物にはもう一つ脂肪細胞が存在しています。
それを褐色脂肪細胞といい、近年、研究が進みさまざまなことがわかりつつあります。
白色脂肪細胞は脂肪をため込む細胞ですが、
褐色脂肪細胞は逆に脂肪を燃焼させる細胞です。
両者は機能だけではなく、見た目も違います。
褐色脂肪細胞は球形ではなく、色は文字通り褐色を呈しています。
私たちヒトではこの褐色脂肪細胞は赤ちゃんの頃に多く存在しています。
というのも、ヒトは生まれるときは裸であり、
胎内よりも低温の外気に触れます。
そのときに、心臓の周囲などに発達した褐色脂肪細胞が脂肪を燃焼させることで、
体温維持、ひいては生命維持を図っています。
成長とともに主に骨格筋が基礎代謝の役割を担うことになり、
褐色脂肪細胞はあまり機能しなくなります。
そのため、少し前まで「褐色脂肪細胞は成人になると消失するか、
あったとしてもごくわずかで意味がないのではないか」という考え方が通説でした。