ウイルスに感染した細胞がSOS物質を放出し、免疫細胞を呼び寄せ活性化したり、
マクロファージからサイトカインを放出させたりします。
そのサイトカインに刺激された免疫細胞や
組織細胞がさらにサイトカインを放出します。
このようにして、新型コロナウイルスの感染が引き金となり、
免疫細胞や組織細胞によるサイトカインの産生が続いたのち、
その共鳴を一気に増幅させる「IL-6アンプ」というスイッチが押されます。
そして、細胞間のサイトカイン放出の呼応が一気に増加し、
サイトカインによる炎症はまたたく間に広がり、
心肺が機能不全を起こすほどの肺炎となるのです。
サイトカインストーム自体は、
インフルエンザなどほかの重症化リスクのあるウイルスでも起こり得ることですが、
新型コロナウイルスはとくに起きやすいことが脅威となっています。
そして、このサイトカインストームにおいて、
もうひとつ炎症を悪化させるファクターがあります。
それが、「免疫ブレーキの故障」です。
免疫の働きが正常な状態であれば、
ウイルスの感染に対して免疫応答
(ウイルスなどの外敵に対処する免疫細胞の一連の反応)が行われたあと、
免疫細胞たちに「撤収」を呼びかける細胞がいます。
それが、「レギュラトリーT細胞」です。
ヘルパーT細胞、キラーT細胞と同じT細胞の一種で、
免疫細胞たちを制御することが役割です。
この細胞が正常に機能していれば、サイトカインストームも抑制されたはずなのです。
しかし、新型コロナウイルスに感染し、重症化した患者の血液中からは、
このレギュラトリーT細胞を含むT細胞全般が
極端に減ってしまっていることがわかっています。
原因はまだまだ研究途上ですが、ふたつの理由が想定されています。
ひとつめは、新型コロナウイルスの感染によって
T細胞が減少しているのではないか、というものです。
どうやら新型コロナウイルスは組織細胞だけでなく、
免疫細胞であるT細胞にも感染し、減少させている可能性があると考えられています。
ただこれはまだ仮説の段階で、今後の研究が待たれます。
そのほか、炎症を起こしているほかの箇所へ動員されてしまっている可能性や、
T細胞が生き続けるために必要な因子が枯渇してしまっている可能性などがあります。
重症者の体内では、キラーT細胞も減少していますが、
司令官の役割を担うヘルパーT細胞と調節役のレギュラトリーT細胞の減少が著しく、
これが免疫力低下の一因となり、
サイトカインストームの発生を食い止めることができなくなっている
と考えられています。
ふたつめは、基礎疾患や生活習慣の乱れです。
免疫細胞はわたしたちの身体から生み出される、身体の一部分です。
そのため、健康状態を悪化させるような生活習慣や、
基礎疾患による臓器の不調があれば、免疫細胞も不健康となり、正常に機能しません。
とくに、レギュラトリーT細胞は腸に多く生息する免疫細胞です。腸内環境が著しく悪化している身体では、新型コロナウイルスが感染する前からレギュラトリーT細胞が少なく、サイトカインストームを起こしやすい状態にあることが予想されます。
これらの要因のなかでも、基礎疾患や生活習慣の乱れによる"不健康"がレギュラトリーT細胞減少の原因となっている点は、極めて重要です。
なぜなら、実際に国内外における新型コロナウイルスの死亡者の多くは、
肥満症、あるいは糖尿病や高血圧などの基礎疾患を抱える患者であるからです。
そのような患者は、レギュラトリーT細胞の減少や機能低下によって、
そもそもサイトカインの産生を誘発しやすい状態にあると考えられます。
こうした重症化の仕組みからわかるのは、新型コロナウイルスへの対処においては、
外からの感染予防のみならず、
自らの身体を"健康"に保ち、
レギュラトリーT細胞を含む免疫細胞が適切に活動できるような
「10割の免疫力」を維持することが非常に重要である、ということなのです。