食事中に食物繊維が多く含まれていると、おもに大腸内において、
それが腸内細菌の栄養源となるため、
たんぱく質や脂肪の多い食事をとっている場合とちがって、
大腸内の代謝様式が、かなり変わってきます。
腸内細菌によって分解され発酵した食物繊維からは、
短鎖脂肪酸や乳酸などの有機酸ができるために大腸内の酸性度が低下し、
がんなどの原因となる有害物質が少なくなり、腸内の環境が改善されます。
したがって、食物繊維が不足すると、便秘だけでなく、大腸がんなど、
腸の病気がおこる原因となります。
一方、食物繊維は、上部消化管を通る過程で、食事中の栄養成分と、
さまざまな相互作用をおこします。食物繊維は、
とくに栄養成分の消化吸収を低下させます。過剰な栄養状態を長期間続けた場合には、
種々の代謝異常がおこることがわかっています。
これを予防するのに、食物繊維が役だつわけです。
たとえば、食物繊維は糖質の吸収を遅らせ、食後の血糖値の上昇を防ぐため、
インスリンの分泌が節約でき、糖尿病予防にも効果を示します。
また、食物中に脂肪やコレステロールがあると、消化のため、
胆嚢から胆汁酸が分泌されて、それらが乳化されますが、
食物繊維は、この乳化を阻害するために、過剰な脂質の吸収を防ぎます。
つまり、高脂血症を防ぎ、ひいては
虚血性心疾患や脳梗塞の発生を予防するのに役立つと考えられています。
このような食物繊維の効果は、一朝一夕には現われないので、
毎日の食事で、きちんと摂取するようにすることがたいせつです。
さて、食物繊維はどれだけ摂取すればよいのでしょうか。
便量が多いほど、食べてから排便までに要する時間が短くなることが、
臨床実験や疫学研究で明らかになっています。
しかし、それにも限界があり、1日の排便量が、
少なくとも150~220gくらいならばよいとされています。
健康な青年男子10人を使って実験を行ない、
最低150gの便量を確保するために必要な食物繊維量を求めたところ、
20~30gという結果が得られました。
いくつかの調査では、食物繊維量が18g以下になると、
結腸がんの死亡率や糖尿病の有病率が増えると報告されています。
このような結果から、1994年に改訂された「日本人の栄養所要量」では、
食物繊維の目標摂取量が初めて取り上げられ、
成人1人1日あたり20~25gと定められました。
この程度の食物繊維を摂取すれば、毎日の排便が保証されると考えられています。
日常の食事で食物繊維が足りているかどうかを調べる方法として、
目標摂取量が定められていますので、食品成分表を用いて摂取量を計算し、
比較すればわかります。しかし、これは簡単にはできません。
もっともよい判定法は、その人が便秘をみることです。
毎日150g以上の排便があれば申し分ありませんが、
排便量を計ることもむずかしいため、毎日、
かたすぎず下痢気味でもない排便があるかどうかを1つの目安にします。
また、食物繊維不足の予防としては、食物繊維の多い食品の摂取を心がけます。
種々の穀類や豆類を中心として、
野菜類、イモ類、キノコ類、海藻類を取り合わせて食べるようにしてください。