漬物は主として塩漬け発酵が行われますが、
これは、組織から余分の水分を出して腐敗を防ぐとともに、
組織の中に含まれている酵素を利用し、
さらに微生物の繁殖を食塩濃度で押さえ、乳酸菌など、
有用な菌が繁殖するようにするためです。
野菜類はその中に各種の酵素をもっており、また、
糖類やタンパク質なども含まれています。
したがって、短期間の浅漬けの場合では、こういった酵素が働いてうま味が出ます。
長期に漬けた場合は、微生物の出す酵素が材料に作用します。
このような酵素類や微生物の働きは温度と関係し、
温度が高いほど働きは促進されます。
しかし一方では、味が粗くなるし、また腐敗菌などの増殖、
あるいは変色などもおこりやすいので、
一般に漬物は気温が低いときは食塩濃度を低くし、
気温の高いときは食塩濃度を高くします。
また、短期間に漬け終わるものは食塩濃度を低くし、
長期に保存するものほど食塩濃度を高くします。
なお、粕漬け、みそ漬けの場合でも、初めに塩漬けするのは脱水が主目的です。
漬物は食塩を使用して脱水することと保存することで、
ビタミンCやカリウムなど、
水に溶けやすいビタミンやミネラルの損失はかなり大きいものです。
また、反面、乳酸菌の増殖によりビタミンB2は増加します。
さらに、糠みそ漬けのようなものの場合には、
糠に含まれているビタミンB1などが漬物に浸透し、これらが増加します。
漬物では、漬けている間に変色する場合があり、これを止めるのに、
ナスなどアントシアン系の色素を含むものでは、鉄塩類あるいは
ミョウバン、釘などを使用します。
また、漬物の緑色を保つために食品添加物で処理したりすることもあります。
このほか、きれいな紅色を出すためにアントシアンを含む赤シソの葉を利用します。
ただし、この場合は酸性の強いものでないと赤く発色しません。
漬物は漬かるとともに酸の量は多くなります。
これが使用した食塩の塩味をまるくするとともに、
保存性をよくする効果があります。
この酸は主として乳酸が多く、そのほか、酢酸などもいくぶん含まれているようです。
また、材料を日光で干してから使用する場合がありますが、これは、甘味を増加させる目的のためです。ダイコン、ハクサイ、キャベツなどには、辛味成分があります。これは、日光に干すことで甘味成分に変化します。沢庵にするダイコンを十分に干すのは甘味を出すためです。
漬物には重石を使用するが、これは食塩による水分の浸出をよくするとともに、出てきた液汁が漬物材料に十分にかぶり、空気に触れないようにして、酵素や有用な微生物の働きをよくする効果があります。しかしいったん水が十分に出たら、ある程度重石を軽くしないと、漬物材料の水分がですぎ、筋ばかりの堅い漬物になりやすいので重石の調節は漬物の重要な鍵であるともいわれいます。なお、漬物材料に液汁が十分にかぶっていないときには、酸素を好むカビなどの微生物が生えやすく、このカビ類のなかには、植物の繊維、とくにセルロースを溶かす酵素セルラーゼを含むものがあります。もしこのようなものが繁殖すると、漬物はどろどろになり、腐敗の状態となります。重石は腐敗防止のためにも重要な働きをしているのです。通常、重石は自然の石が使用されてきたが、最近は、プラスチック製で食品衛生上安全な基準のものが出回っています。なお、重石にコンクリートブロックを使用すると、漬物中の酸によって酸に溶けやすい石灰を主とするセメントが溶け、有害な不純物も入るおそれがあるので使わないほうがよいでしょう。大きな石がないときは、食品用プラスチック容器に、きれいな小石を詰めても代用できます。