ヒルデガルトは体が特に弱く、ある伝記では、
「土器はかまどで鍛えられ、勇気は弱さの中で完全になる。
それゆえに身体の苦しみは欠けることなく、幼児の時から数多く、
絶え間ないほど出て来て、多くの場合、立っていられないほどであった」といいます。
ヒルデガルトはその中で秘密にしていた幻視をユッタに打ち明けます。
ユッタはそのために聖ディジボード修道院のフォルマールに相談します。
そのため彼はヒルデガルトの相談相手として30年間、彼女を補佐し、助けます。
病気のためひ弱であった少女、ヒルデガルトはたびたびの幻視で
神秘的な知識を与えられていたのです。
15歳の時に彼女は修道女の道を選択します。
ベネディクト会の修道院の生活は記録に残っています。
朝から教会法によって聖務日課が決められ、時間も区切られています。
特別な理由がなければ、朝早くから起きなければなりません。
しかも真夜中に近い時間から賛歌が歌われ、夜明け前には賛歌に続き、
ミサ聖祭があり、それが終わると3時間の聖勤。
自由時間は14時ら15時まで。その後は個人、集団の手仕事。
知的作業。それが終われば修道院礼拝。
すべての修道女は院長の前に集まります。
そして夕刻から最後の聖務日課の礼拝。
聖務日課では、150編の詩編を1週間の間いに全部歌い終えるのです。
そして祈り、瞑想、仕事が典礼暦(注・01)の進行と共に1日が刻まれていきます。
典礼暦(注・01)
キリストの救いの生涯を1年間の周期に当てはめて、日々これを記念するようにつくられた教会独特の暦。教会によってその構成はさまざまであるが、カトリック教会ではこれを典礼暦とよび、以下のような構成になっている。1年は、キリストの降誕を待ち望む「待降節(たいこうせつ)」、その誕生を祝う「降誕節」、キリストの復活祭を迎える準備の「四旬節」、復活を祝う「復活節」の期間と、それ以外の「年間」の時期に区分される。
キリスト教のもっとも大きな祝日は、一般には降誕祭、つまりクリスマスと思われているが、教会で最大の祝日は、キリストが十字架の死によって救いのわざを完成し、死からよみがえったことを祝う復活祭である。復活の大祝日の前の週は聖週間とよばれるが、そのなかでも聖木曜日は最後の晩餐(ばんさん)、聖金曜日と聖土曜日は受難と死去、そして続く日曜日に復活が盛大に祝われるのである。一般社会の暦ではそれぞれの祝日も連関性を欠くが、教会の暦では、冬にはキリストの誕生と聖家族、春にはキリストの受難と十字架の死と復活と聖霊降臨祭、夏には聖母マリアの被昇天祭、秋にはキリストの功徳(くどく)によって救われた天国の諸聖人と諸死者を記念する、というように連関して、キリスト信者がキリストの生涯と教会の歴史に日々の生活をあわせるように構成されている。
四つの典礼季節以外の時期である「年間」は「主の洗礼」の祝日から「王であるキリスト」の祝日までにまたがる期間で、34週にわたり、それぞれの聖節への準備が行われ、また教会で聖人の位にあげられた多くの聖人たちの記念が行われる。
教会では主日(しゅじつ)(日曜日)ばかりでなく、毎日その日の祝いや記念にあわせて、ミサ聖祭が捧(ささ)げられ、1年の周期のなかで、毎日のミサの聖書朗読の箇所が決められているが、主日の朗読箇所は3年周期、週日のものは2年周期に配分され、それぞれの日にあわせて、信者や求道者が旧約・新約両聖書の豊かさに触れるように考慮されている。
ミサ聖祭の祭式は一定しているので、毎日もしくは主日に同じ祭式が繰り返されているようにみえるが、その内容は教会暦(典礼暦)に従って日々これ新たに捧げられているのである。
(日本大百科全書(ニッポニカ)